デザイン思考は、解決困難と思われていた課題や二律背反する問題に対し、創造性を最大限に発揮することによって解決を図るためのツールです。プロセスとしては、共感(Empathize)→問題定義(Define)→アイディア(Ideate)→プロトタイプ(Prototype)→評価(Test)の5ステップを短時間で行い、必要に応じて何ステップか戻って繰り返します。新規事業や商品・サービスを作る時に使われることが多いですが、社会課題、経営課題の解決、組織改革にも有効な手段です。
ー共感ー
対象者の行動や思考に共感することで、自分事として捉え、解決すべき課題がどこにあるのか、達成したい真の目的はどこにあるのかを探ります。ここで、表面的な課題や目的だけに囚われないことが重要で、深く共感し、本当の課題のありかや目的を探し出せるかどうかが鍵となります。
ー問題定義ー
これをもとに、経営課題の解決や新規事業開発であれば自社の本当の強みを考慮に入れ、問題定義を行います。”共感”のプロセスで見つけ出した真の目的などを踏まえて、何を課題として捉え、解決するのか定義いたします。この問題定義でアウトプットのレベルが決まる重要なプロセスです。
ーアイディアー
定義された問題に対し、解決するアイディアを制限なしに出します。ここで大切なのは、実現可能性を無視してアイディアを考えることです。現存する様々な制限要因を前提にしてしまうと、差別化のできない陳腐なものになってしまうためです。異質なものを組み合わせたり、異分野の事例を適用したり、真の目的を達成することだけを考えます。
ープロトタイプー
他の人にわかるような具体的な形にします。実現した時の世界観を伝えるために、寸劇で、紙とテープでモデルを作る、イラストにする、などを適宜選び、”評価してもらえる”ようにします。
ーテストー
ユーザーにプロトタイプを提示し、評価してもらいます。評価が高い低いも重要ですが、その理由が大切です。例えば、評価が低い場合、プロトタイプが不適切で伝わらなかったのか、アイディアが悪かったのか、そもそも問題定義が間違っていたのか、などを検討します。また、評価が高くても、わかりやすい=既存に似たものがあるので高い場合もあるので、評価が高い理由も把握する必要があります。ここで手応えがあれば、具体的なビジネスや商品・サービスとして構築していきます。
デザイン思考で直感や閃きを重視するのには理由があります。明確に定義できる課題であれば、ロジカルシンキングで十分対応可能ですし、その方が確実に短期で成果が上げられます。しかしながら、複雑な要因がからんだ課題では、論理的に考えるには膨大な情報量が必要になり、かつ、それぞれの要素に含まれる不確定要素によって、前提条件ごとに得られる解が異なるため、決断が難しくなります。
デザイン思考が得意とする複数の要素が複雑に関わる課題は、正解を得ることはできません。変数が複数になると複雑系となりちょっとした前提条件の違いで結果が大きく異なってしまうためです。例えば世界情勢。情報の拡散が速くなっており、同時に相互に影響しながら変化していくため、予測困難な状況が増えています。
集める情報の量と精度、経験知ともに高い経済学者や経済評論家の多くがリーマンショックを予測できなかったのは、彼らの能力が足りないのではなく、経済の未来予測が困難なためです。最近ではMe Too運動やグレタ・トゥーンベリさんの始めた環境運動の広がりなど、小さな活動から短期間で世界中に広がり大きなうねりへと変化しました。これも”おこりそう”であることは予想できても、いつどんな形で起こるかは予測できなかったと思います。
正解のないことに対して対処する、具体的なモノやサービスを創造する、こういったことにデザイン思考は適しています。閃きや直感を重視するのもこのためです。思いもしなかったもの同士を結びつけ、”正解”ではなく、新たな解決方法を見出すために。
短時間でプロセスを進めるのも、論理的思考に陥ったり固定概念に囚われるのを防ぐためです。論理的思考で導かれる答えは、誰が考えても大同小異になります。現状の課題の原因も、これによって隘路に嵌っていることが多いと思います。また、現在の制約要素に雁字搦めにされた差別化できない答え、企業論理が優先されたユーザー不在のものに陥る危険性も高くなります。
ただ、これが、普段論理的思考に慣れた人には難しさを与えてしまうのも事実です。企業で仕事をしているほとんどの方が、普段は制約をきちんと踏まえて論理的に考え、行動していると思います。これに慣れきった頭を切り替えて、飛躍できるようにすることが最初のハードルになります。
どうして良いかわからない課題に対し、解決方法を作る、誰も気づいていない創造を行う、イノベーションそのものですね。より効果的にデザイン思考を行うための方法についてさらに具体的に考えてまいりたいと思います。
もし、これまでにも社会課題の解決や新規事業の開拓など行なったことがあれば、デザイン思考のプロセスに照らし合わせて、どこをどのように行なっていたか、十分に行えたところと不足していたところ、疑問なところ、など振り返っておくとさらに理解が深まると思います。もし、まだ行なったことがなければ、これからテーマにしたいことでシミュレーションしてみるのも良いトレーニングになるので、実行してみてください。