iPhoneとかスマートフォンとか騒がれる用になって数年立ちました。
いまやショップをのぞいてみても、従来型のいわゆる“ガラケー”は影を潜め、ほとんどがスマートフォンになっています。
このスマートフォン、いったいわれわれ視覚障がい者には利用できる物なのでしょうか。
そして、利用することのメリットは何でしょうか。利用すると何がどのように変わるのか、そして今後の課題は何でしょうか。
ここでは私の活用方法や利用可能なアプリを紹介しつつ、こう言った事柄について考察していきます。
いきなり結論から書くと、スマートフォンは視覚障がい者にも利用可能です。
iPhoneではアクセシビリティ、Androidではユーザー補助という設定項目があり、その 中に音声読み上げや画面拡大の綱目があります。
ただし後述するように、その利用方法や完成度は機種によって様々です。なのでここから先は特に断りの無い限り、私がメインで利用しているiPhone、iPadと言ったいわゆるIOS系のデバイスについて説明していきます。
まずは、私が1日の中でiPhoneをどのように利用しているかを紹介します。どんなことができるかについて、おおよその理解をいただけると思います。(“…”内はアプ リ名)
視覚障がいの利用者が多い代表的な携帯として、富士通のらくらくフォンがあります。両者の違いを考察してみましょう。
基本的に、できることにはそれほどの違いはないはずです。ネットや電話と 言った 基本的な機能は勿論、視覚障がい者にとって重要なDaisy、カメラによる色認識、GPS によるナビゲーション、乗り換え案内や占いまで、両者とも利用可能です。
iPhoneにはお財布ケータイやワンセグが搭載されていないことを考えると、らくらくフォンの方が高機能とも言えます。
iPhoneの最大の特徴は“柔軟性”にあるのではないでしょうか。
らくらくフォンではあらかじめ搭載された特定の機能しか利用できないことに対し、 iPhoneを初めとするスマートフォンでは世界中の数10万のアプリが、自分の思い通りにいつでも出し入れ可能です。
この特徴は非常に重要で、例えばシンプルに使いたい人はシンプルな使い方ができ 、逆に何でもやりたい人は何でもやっていいという、その人流の使い方ができるということにつながります。
利用者が「こんな余分な機能はいらない」とか「低機能過ぎる」とぼやくことが極端に少なくなるわけです。
またこのことは、利用者の遊び心や挑戦心を刺激します。利用者は「こんなことが できないか」と思ってアプリを検索し利用してみることで、生活や経験を自分でデザインできるようになります。
少し抽象的な表現なのですが、私の場合、「健康管理ができないか」と調べていて、 最終的に体重計と連携するアプリを見つけて購入しました。従来のようにただ音声で 読み上げるだけの体重計と比べ、その推移が時系列で確認でき、またSNSと連携することで思わぬ抑制力も働くようになりました。
らくらくフォンが高齢者や障がい者という特定のターゲットを対象にした商品であるのに比べ、iPhoneは誰でも利用できる=ターゲットを限定していないという違いがあります。
また別の視点として、らくらくフォンはiModeサイトの多くが日本製なのに比べ、 iPhoneでは海外のアプリやサイトが利用できるという特徴もあります。
健常者と障がい者、国内と海外というボーダーが無くなることで、私たち視覚障がい者も多くのリソースを利用できるようになります。
“みんなと同じものが使える”ということは、感情面でもその他の面でも、非常に有意義です。わからないときには質問できる人が回りに沢山いるということですから。
スマートフォンは、IOS系とAndroid系の2種類に大きく分けられます。一般的な違いについては割愛するとして、視覚障がい者的には次のような違いが影響してきます 。(それぞれiPhone4s+IOS6.01、Nexus7+Android4.1で検証)
iPhoneでは初期状態で“Voiceover”という音声読み上げ機能が組み込まれており 、追加のアプリをダウンロードすることなく利用可能です。
またパソコンにインストールしているiTunesからVoiceoverを有効にすることで、視覚障がい者でも独力でiPhoneを利用できる状態にすることができます。
Androidでは“Talkback”という読み上げ機能が組み込まれているものの、追加で 日本語音声合成アプリをダウンロードする必要があり、この操作が視覚障がい者独力ではハードルが高いと感じました。
IOSデバイスでは、OSのバージョンが同じなら、基本的な操作の仕方はiPhoneでも iPadでも同じです。
これに対し、Android系ではOSのバージョンが同じでも、各メーカーや端末毎に動作が違う点が見受けられました。
例えば“2本指で下にスライド”というジェスチャーでも、動作する端末としない端末があります。
IOSでは6.0で念願の漢字の詳細読みが実装されました。これによりメールやSNSの投稿などが気兼ねなくできるようになったと感じています。
Androidは4.1では詳細読みは実装されておらず、今後の対応が期待されます。
iPhoneでは“設定”→“一般”→と進むと“アクセシビリティ”という綱目があります。この中の様々な機能を利用することで、いろいろな方に適した状態でiPhoneを 利用することができるようになります。
ここではその概要を紹介しつつ、全盲の利用者向けの機能であるVoiceover について解説していきます。
以下に主なものだけをまとめます。
ご存知の通り、スマートフォンには物理的なボタンがありません。利用者は 画面上 の文字や絵に触れる(=タッチ)ことでスマートフォンを操作します。iPhoneでは Voiceoverを有効にすることで、全盲の利用者向けの環境を実現しています。以下に詳しく解説します。
最も基本的な操作の仕方は、1本の指で画面に触れることです。iPhoneは通常指で触れることで動作しますが、Voiceoverが有効なときには、指で触れたときには単にその対象を読み上げるだけにとどまります。読み上げた箇所は黒の枠で囲われるので、 視覚的にもどこを読んでいるかがわかります。そこを実際に動作させたいときには、 以下のどちらかの方法を使います。
利用者は画面に指をつけたままスライドさせることで画面内用を把握し、動作させたいアプリやリンクを見つけたら上記のどちらかのジェスチャーを行います。この繰り返しでiPhoneを操作していきます。
Voiceoverの優れた点は、利用者にいくつかの使い方を提供している点にあります 。上で紹介した1本指の操作では、利用者は画面のレイアウト、どこに何が書い てある かを知ることができます。
これに対して画面を1本指で左右どちらかにはじく(=フリック)ことで、読み上げ 箇所を右や左へ移動させることもできます。
Voiceoverでは通常、画面の左上のものを最初に読み上げます。ここで右にフリックすることで読み上げ箇所を右へ移動させ、右端まできたらすぐ下の左端へと移動させることができます。左フリックで逆方向へ移動します。
このことはとても重要です。利用者は画面レイアウトを意識せずとも、音声を聞いているだけで目的の情報を探すことができるからです。PCのスクリーンリーダーや音声ブラウザでネットを閲覧するとき、画面のレイアウトがわからずともカーソルキーを操作するだけで情報を探せることに似ています。
私も上記2通りの使い方を臨機応変に使うことで、快適にiPhoneを操作しています 。アプリを選んで立ち上げるときには1本指の操作、新聞の見出しが並んでいるようなとき、あるいは小さなリンクを探すときには左右フリックと言った具合に使い分けています。
Voiceoverの設定画面の中には“操作練習”という機能があり、ここで様々なジェスチャーの練習と解説を受けることができます。うまくいくまで練習できるので、不安が少ないと思います。
以下によく使うジェスチャーの一例を記します。
ネット上には様々な解説がありますので、参考にしてください。
Bluetoothを搭載している点字ディスプレーの一部では、iPhoneと同期させて読み上げ内容を点字で出力することが可能です。残念ながら日本語ではマスアケに問題があるため読解には苦労しますが、IOS6.0になってかなり改善されました。
これにより、例えばカラオケボックスで曲をネットで検索し、歌詞を点字で読みながら歌うと言ったこと、あるいは盲聾者の利用にも一定の可能性が出てきたと感じています。
最後に課題と展望についても考えてみたいと思いますが、よく議論のネタになる“キーのあるなし”については割愛します。現在はいろいろなガジェットが出ており組み合わせることで手助けになること、VoiceoverやTalkbackの機能がそれなりに充実していること、世の中の流れとして物理的なキーの現象は避けられないと感じることが 理由です。
課題を整理してみると、視覚障がい者にとってのIT化前期の頃と同じ課題が見えてきます。
視覚障がい者にとってPCの操作がある程度高いハードルだったのと同じように、 iPhoneの操作も慣れや経験、スキルを必要とします。これを伝える“スマホ講習会” のようなものが必要ではないでしょうか。
またアプリ作成側に対して、視覚障がいを初めとする種々の障がい者の存在 を広め 、対応可能なアプリ政策を促すことも重要です。
IOS5.0で搭載された音声秘書“SIRI”だが、この原型はVoiceoverの機能の一部だと感じています。
以下は個人的な主観ですが、VoiceoverにはもともとSIRIに類似の機能があり、指定した人に電話やメールを送ることができました。IOS5.0でこの機能が拡張され、少し楽しさを加えたものをSIRIとして搭載していると思います。
視覚障がい者の利用方法を健常者が分析し取り入れた例と言えます。
このことからもわかるように、視覚障がい者がスマホを利用しその感想や提案を企業へ伝えることで、視覚障がい者のための機能ではなく、健常者にも便利な機能として搭載されること、その結果われわれの暮らしがより便利になるといったことは、現実としてありうるのではないでしょうか。
スマートフォンはとっつきにくいものだとは思います。しかしうまく利用することで、今までとは違う生活スタイルになるだけで、決して何かが不便になるといったことにはつながらないのではないでしょうか。