インクルーシブコラム

障がい者活用に向けた国内外政策・地域創生事例と提言

スペインの統合教育に見られる視聴覚障害者への教育体制

スペインの視聴覚障害者への義務教育

現在のスペインでは、基本的にすべての子供たちの義務教育は統合教育です。
スペインでは小、中学校あわせて8年間の一貫義務教育制になっています。以前は盲学校がスペイン国内5箇所にありました。1984年か5年ごろから、スペイン盲人協会の方針として、子供たちを公立、私立を問わず家から近い学校に通わせる事としました。

この統合教育のパイオニアとなったのがバスク州です。州政府が「教育は万人のためのものだ」という方針を明確に打ち出して、実行したからです。
 
バスク州三県では全国に先駆けて、1984年に「視覚障害者リソースセンター」を開設しました。視覚障害児童を支える教員をチームとして配置するのですが、各教員は視覚障害児童が学ぶ学校に出向いて、点字の教科書の作成、学校への適応訓練等、児童が必要とする教育サービスを行います。一週間に一度の割合で各児童を支援します。この州政府の取り組みに盲人協会が合意し、政府に必要な材料を提供したのです。
たとえば、点字教科書作成のために点字印刷機を提供する、白杖の使い方やルーペの使い方、パソコンの使い方を学ぶために盲人協会のリハビリテーション施設と器機、サービスとを提供するといった具合です。

これは盲人協会にしかできないことで、まさにその特色をフル活用しています。現在はパソコン等のハイテク機器を使って教育を受ける必要がありますから、視覚障害者関連のパソコンのハードウェアやソフトウェアを盲人協会が提供しています。
たとえば、ビルバオ市のあるビスカヤ県のリソースセンターには、30人の専門家が働いています。3名は点訳専属、22名は教員で一人の教員が7名〜9名の生徒を受け持っています。それぞれの生徒が学ぶ学校を訪れて必要な支援を行うのです。最近は特に視覚障害者用パソコンソフトの習得を、盲人協会が主導で行うことが重要になってきました。また、白杖の使い方、学校内の移動、教師とのコミュニケーション、残っている視力の有効活用(これは全盲の生徒よりも弱視の生徒のほうが多いと言う事情からです)、このような支援を行っています。

ルーペやソフトウェアなどの必要な器機を、盲人協会が無償で貸し出しています。児童は義務教育の間は無償で必要なサービスを受けられます。必要であれば奨学金を申し込むこともできます。盲人協会が奨学金を出すのです。
このようなバスク州の取り組みは、徐々にスペイン国内に広がっていきました。しかし、州によって多少の違いがあります。バスク州では州政府がリソースセンターの必要な経費をすべて負担します。盲人協会は負担しません。たとえばリソースセンターの15人分を州政府が、残りの15人分を盲人協会が負担する、30人全部盲人協会が負担するというところもあります。これは州政府と盲人協会の各州支部との話し合いで、双方の負担率が決まります。

日本では、未だに熱意ある教師や教育委員会の個人的な努力で、統合教育が支えられています。このスペインの事例のように、ヨーロッパの国々では、まず「統合教育」の仕組みをつくります。そしてそれに必要なリソースセンターや教員といった、物的、人的な配置をします。そしてそれにかかる予算を計上します。このような組織だった取り組みが、実りある統合教育に必要なことだと思います。

大学は視聴覚障害者を「自立した大人」とみなす

次に大学のことですが、これは義務教育とはちょっと考え方が異なります。
盲人協会では大学レベルの教育を受けようとする人たちは、「自立した大人」とみなします。だから州政府も盲人協会も最低限の支援しかしません。本人が白杖の使い方を教えてほしいと希望すれば、そのサービスを提供します。
でも、義務教育児童のような方法での支援ではありません。18歳以上はもう成人ですから、ほかの障害のない成人たちと同じように、自分自身で自分自身のことを決めることが要求されます。奨学金や適応訓練と行ったサービスは受けられますが、義務教育のときとは扱い方が違います。

日本では、大学入試の時間延長が画一的に決まっていますが、スペインでは全く違います。自分が受けたい大学と、どんな形で試験を受けたいのか、どんな配慮をしてほしいのかを、自分で交渉して決めます。大学に入った後も同じで、教科書や授業で配られる資料、板書の文字など、すべて自分で各担当の教授と交渉して決めるのです。「大学生は大人である。大人であるということは、自分で働けるということ」を意味します。だから「自分のことは自分でする」という考え方が、視覚障害のあるなしに関わらず、貫かれています。日本よりも、個人の資質が大きく問われます。

スペイン盲人協会では、外国からスペインに来て勉強する視覚障害者に対しての対応も行っています。州政府の支援と盲人協会の支援両方とも受けられます。まず、盲人協会の支援について、奨学金とリハビリテーションは除外です。ハイテク機器の使い方などのサービスは外国人でも受けられます。そこがスペイン国民である成人の視覚障害者との違いです。州政府はほかの外国人と同じように最低限の支援を行います。それは「教育は万人のため」という方針が土台になっています。
盲人協会は外国人の子供たちには、スペイン国民の子供たちとまったく同じ支援とサービスを行います。でも成人は違います。成人は働くことができるとみなされるので、資金的な支援はしないのです。

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