20年ほど前、アメリカ アリゾナ州フェニックスを旅行した時の事。その年、メジャーリーグの新球団として創設されたダイヤモンドバックスの試合があることを知り、急遽球場へ行ってみることにしました。行けば何とかなるだろうと軽い気持ちで行ったのですが、創設1年目ということで球場(当時の名称はバンクワン・ボールパーク)はお祭り騒ぎ。何とかチケットブースを見つけ、チケットはまだあるか尋ねると、「いくら払える?」と逆に聞かれ、ええっ! ここってダフ屋? とアタフタ。「Infield(内野)? or Outfield(外野)?」とさらに聞かれ、いくら取られるんだろう、とビビリながら「Outfield 3tickets please」と答えると、3枚で24ドル程度。安くて逆にびっくりしました。
球場の中に入ると、電動車いすに乗った10代位の男の子が近づいてきて、「チケットを見せて」と話しかけてきた。新手の寄付勧誘か?と身構えつつチケットを見せると、「こっちだよ」と誘導してくれる。よく見ると地元のボランティアスタッフのベストを着ていました(心が汚れちまった大人でごめんなさい)。「ここだよ」と案内された席はスコアボード横で、手すりにちょっとしたテーブルが付いているエリア。椅子はなかったけれど別のスタッフがすぐに折りたたみ椅子を持ってきてくれました。周りには、他の車椅子ユーザ、高齢者、ベビーカーを横に置いた夫婦もいました。
ピーナッツの殻が床に散乱し、めちゃめちゃ汚いのがアメリカっぽいなと思いつつ、ここまでの道のりを思いかえして、はっと気づきました。タクシーを降りて、チケットブースへ行き、球場内に入り、観覧スペースまで、エレベーターはおろか、スロープさえ使わずたどり着けたのです。地上から10メートルほど掘り下げたところにグラウンドがある構造にするだけで、こんなにも快適な作りになるとは、本当に驚きました。
その後、日本に戻ると、地元の市役所から、建設予定のサッカースタジアムについてヒアリングがあったので、バンクワンボールパークの感動を伝えました。その甲斐があったのかどうかは分かりませんが、出来上がったスタジアムも地上レベルからフラットで車椅子スペースまで行けて、椅子をはね上げれば車椅子のまま楽々観覧できる作りになっていました。ただ、掘り下げてグランドを作るのではなく、逆にスタジアムの周囲を盛り上げた作りなので、駐車場やバス・タクシーの乗降場からは、長いスロープを上がらなければいけません。砂漠の中にあるフェニックスとは違い、治水も考慮しないといけないことを踏まえれば、よくがんばりましたと言えるでしょう。
僕の障害は第6胸椎圧迫骨折による下肢機能、体幹機能全廃。いわゆる下半身麻痺です。下半身麻痺と言うと、足が動かないというのは想像しやすいと思いますが、僕の場合、みぞおちから下が麻痺しているというのが正確で、上半身を左右にひねる、とか 支えなしで身体を直立に保つ、という動作ができません。この感覚がなかなか伝わりづらいです。
例えば、牛丼を食べようと思う時、左手で丼を持ち上げ、右手に箸を持つと、上半身の重心が変わり、身体が前に倒れていきます。それを防ぐには、
いずれかを選択しないといけません。
②は、いかにも行儀が悪い。③は、つゆだくだと箸ではご飯を口まで運べない、なので、①が多くなりますが、そうするとお腹の上に汁やご飯をこぼします。
あと地味に大変なのが名刺交換。名刺は、両手で差し出し両手で受け取るのがマナーですが、それをすると膝の上にパタンと倒れてしまいます。身体の近くで名刺を両手で持ったのち、名刺を右手に持ち替え、左手を膝について体を支え、「片手で失礼します」と言いながら右手で名刺を差し出し、右手で相手の名刺を受け取り、身体の近くに引き寄せた後に両手でもって確認する、というようにしています。
アフターコロナの名刺交換はスマホで、という流れになりそうです。その時でも、両手で操作するのが正しいマナー、なんてことにならないことを期待しています。
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ディーさん
脊椎損傷、車椅子運転歴36年
車椅子ユーザーのディーです。
車椅子だから感じること、
車椅子だから見えること、
などなど
日々感じたことを綴ってまいります。