デザイン思考で結果を出すために必要なことは
1. 固定概念を壊す
2. 多様性を価値に変える
3. バックキャスト思考
4. 未来の環境制約を前提とする
5. 時代の空気を読む
6. 俯瞰的に捉える
7. 当事者との協働
の7つです。この7つについて、具体的にどのように実施するか考えてみたいと思います。
1. 固定概念を壊す
これは一番難しいかもしれません。日本人が当たり前と思っていることがグローバルでは当たり前でないことは、日本在住の外国人に聞いてみるとすさまじい数で出てきます。また、固定概念であることに気付いていないために”固定”されてしまうわけで、気付いていないことを壊していくことは相当にハードルが高いと思います。
具体的な方法として、普段社会から排除されがちな方と協働することが有効です。例えば、高齢者、障がい者、外国人など。普段社会から排除されることが多いために、普通の人にない視点と経験を持っています。
普段見過ごしている不便などの社会課題を顕在化してくれると同時に、多くのニーズを持っているため、協働することで、多くの”思い込み””慣れてしまって見過ごしていること”に気付くことができます。
ここで一つ注意が必要なのは、こういったマイノリティの方々であれば誰でも良いわけではないことです。直面する社会課題を積極的に解決しようとしていることが大切です。この解決のプロセスにおいてニーズが発生します。また、自分の状況を第三者的に捉えることが必要になるため、普通の方にない視野を持つようになります。こういったアクティブに社会課題を解決しながら自立していこうとされている方と協働することで、視野の拡大と見過ごしているニーズへの気づきを得ることができるようになります。
2. 多様性を価値に変える
ひとつにはメンバーの多様性を確保することです。年齢、性別、経験、知識などが多様であるほど視野が広がります。企業であれば異業種で取り組むと効果的です。難しければ、できるだけ異部門のメンバーを集めるなどの工夫が必要です。
この時、できるだけ必要なステークホルダー全員にメンバーになっていただくことも有効です。例えば新商品の開発であれば、企画、研究、デザイン、マーケティング、場合によっては販売や生産に関わる方々など。普段見ているもの、考えていることが異なる人同士のセッションは発想を広げることにつながり、また、創造したアイディアをプロジェクト化して実施する際にも、問題定義を含めて”プロジェクトの目指す目的”が共有されているため、より建設的に進めることができるようになります。
もう一つは異分子をメンバーに加えることです。この目的でも、普段社会から排除されがちな高齢者、障がい者、外国人などを加えることが有効です。異質なメンバーが入ることで、それまで常識だと思っていたことが覆ったり、全く違う視点が加わることで、大きく視野が広がります。これによって、偏った共感に陥ったり、本質からずれた問題定義になることが防げます。均質なメンバーで行わざるを得ない時は特に視野狭窄に陥りやすいので、有効な手段となります。
例えば働き方改革を考える時に、男女子育て中の方を集めるのは当然として、満員電車にのることが困難な車椅子ユーザーや、定時労働が体力的に難しい高齢者を加えることが有効です。普段社会から疎外されがちな彼らの視点は、本質的な改革に何が必要なのか理解するための助けとなり、重要な問題定義を高いレベルで行うことを可能にします。
3. バックキャスト思考
創造性を発揮すること、新規にモノやコトを創ること、今まで解決困難であった課題への対処。こういったことを行うためにはバックキャストで考える必要があります。
7つの環境制約、エネルギー、資源、食糧、人口、気候変動、水、生物多様性。これを把握した上で、解決したい社会課題やありたい組織のあり方、未来の事業、こういったもののイメージを創り上げるバックキャスト。複数要素が関わって確定的に予測することが困難な未来を、予測するのではなく、どんな世界にしたいのか、創りたい未来を描く。この世界観を描くことが創造性を高めるために大切です。
例えば地域の図書館を誰でも利用しやすいようにする、という課題に対し、初めからどうすれば利用しやすいようになるか、というところから始めると、車椅子ユーザーや高齢者のために段差をなくす、エレベーターを設置する、サインボード を増やす、といったアイディアになりがちです。
もちろんこれも大切ですが、図書館を将来どのような状況にしたいのか、周囲の環境含めて”世界観”をつくり、そこからどんなものがどんな形で必要なのか考えていくと、全く違った発想が出てまいります。
例えば、”高齢化とコミュニティの分断の進む町で、みんなに愛され地域のハブとなる図書館” という未来像を描いたとします。この未来像に向けたファーストステップは、人生経験豊かなシニアの案内ボランティアを募って対応する、などのアイディアが出てくると思います。これによって、来場者の困りごとへの対応だけでなく、どんな本を調べれば良いのかなど含めて施設の利用ガイドにもなり、実は一番必要なのはコミュニティスペースだった、ということがわかったりします。最初からハードの改修で始めるのではなく、どんな図書館になることが求められいるのか課題点を明確にしながら進めることで、本当に必要なことの見極めができるようになります。
制限なしに未来を描くことで、本当に実現したいこと、どんな世界になれば課題が解決するのか、本質的な部分を明確にすることに繋がります。解決したい社会課題や、作りたいサービスが小さな部分的なものであったとしても、それが実現した時の世界を描くこと、周囲を含めた未来のイメージを持つことが、創造性の刺激になり、また、本質的な課題への解決への導線となります。
4. 未来の環境制約を前提とする
7つの環境制約、エネルギー、資源、食糧、人口、気候変動、水、生物多様性を無視したアイディアは未来で役に立たないアイディアにつながります。日本の人口は減少に転じていますが、海外からの流入人口を計算に入れなければ、今後少なくても10〜20年は減少が続くことは間違いなく、人口減少、超高齢化を前提とすることが課題解決には必須になります。同様に、他の環境制約についても、”変えようのない事実”部分をしっかり把握しておく必要があります。連鎖的に起こる影響は予測困難な部分も多くありますが、温暖化の進行→気候変動の激化→水不足と洪水増加の同時進行→食糧難の増加 など避けようがない事実を踏まえる必要があります。
この制約は、従来と同じ活動を続けることに対する制約であると同時に変革のチャンスともなります。このチャンスを生かすことが、イノベーションに繋がります。温暖化への危機感が生活者の意識変化や各国政府の規制強化につながり、ハイブリッド車や電気自動車への移行を一気に進めたように。電気自動車はモーターとバッテリーで構成されるため、複雑でノウハウの塊のようなエンジンに比べて参入が容易となり、今までの自動車メーカーの優位性が崩れます。次世代モビリティをめぐる競争は激化していますが、環境制約を踏まえ、よりよい未来を描くことができ、より変化に対応できたところが、生き残ることになると思います。車を作ることより、モビリティシステムやサービス構築に軸を移しつつあるメーカーが出てきているのも、こういった変化を読んでのことです。
正解はない世界ですが、どのように未来を捉え、どのように未来を創造するか、どう対応できるか。大きなチャンスを掴む緒になります。
5. 時代の空気を読む
日常の中にも変化の兆しは現れます。この”時代の空気”とも言うべきものを読むことができると、調査では見えないような変化の予兆を知ることができます。
例えばファッションの世界ではリサイクル素材を使うことやリサイクルを前提として作ることがしばらく前からトレンドとなっています。デザイナーが、服もリサイクルを本気で考えないといけないところにきていると感じているためです。
デザイナーは予兆を感じて変化を先取りすることによって流行を作っているので、例えば服のデザインや車のデザインなどを俯瞰的に見て、どんな変化が生じているのか、なぜこんなデザインが流行っているのか考えてみる。こういった訓練を日常的に行っていると、通勤電車に乗っているだけでも世の中の変化の予兆を捉えることができるようになります。
自分たちが解決しようとしている社会課題や、新規事業などが、こういった変化によって、どこか間接的にでも影響すると意識することで、視野が広がり、より深く共感できるようになります。これが本質的な課題に対する気づきにつながり、問題定義のレベルを向上させることができます。さらには、こういった変化を演繹してアイディアを膨らませることでより創造性を高めることを可能にします。
6. 俯瞰的に捉える
これが一番難しいかもしれません。対応しようとしている課題の周辺や少しでも影響がありそうなものすべてを網羅的に詳細まで知ろうとすると途方もない時間・労力が必要になります。そこまでは必要なく、なんとなくこんなことも影響しそうだ、周囲にこんな状況がある、程度で良いので俯瞰的に捉えることを心がけることは重要です。課題に直面した際、どうしてもその課題だけを注視しがちになり、見えている範囲で解決しようとしたり、外の世界からの影響を無視しがちで、効力のない対策に陥る可能性が高くなるためです。
俯瞰的に捉えることが有効な理由は二つあります。
一つは異質なものを結びつけてアイディアに繋げられるようにするためです。論理的思考は、論理的に考えるために思考範囲を狭めて単純化し、解が明確になるようにして進めますが、これが視野を狭める原因になります。解決困難な課題に対応するためには、全く違う分野で行われていることや異質なことからヒントを得たり結びつけてみることによってアイディアを得ることが大切になります。歴史的な大発見やイノベーション を起こした人々も、ゼロから発想したわけではなく、どこからかヒントを得ています。刺激をうける、といっても良いかもしれません。様々なところからヒントを得てアイディアを広げていくことが、創造性を高めることに繋がります。
二つ目は全体のバランスを見ながら、どこに力点を置くことが重要なのか知るためです。例えば、経済の課題でも、経済の動きだけを見ていては対応を誤ります。経済は人の営みの集合ですので、世界情勢はもちろんのこと、人々の気持ちに影響する要素、例えば気候変動などを考慮に入れる必要があります。他にも、自然災害に対して危険分散を考える、というテーマの場合、自社工場についてだけでなく、サプライチェーン全体や災害によって生じる交通インフラなどのイメージを持っている必要があります。実際、東日本大震災の時に自動車メーカーが製造再開に時間がかかった理由の一つが、危険分散のために部品の複数購買を励行していたが、ある部品の部品を製造しているのは日本に1社しかなかった、ということがありました。
自分たちが関わること、テーマ周辺だけでなく、何らかの影響がありそうな全体を俯瞰的に捉えておくことが重要です。すべてを網羅的に緻密に見るのではなく、全体の関係性と相互影響を感覚的に捉えておくことが創造性を高めるとともに、問題定義の質の向上に繋がります。
視野を広げ、俯瞰するためにも、固定概念を壊す、メンバーの多様性、未来の環境制約についての知識が役に立ちます。また、日常生活でも、なぜこんなことが起こっているのか、それはどんなことが影響しているのか、それに対してこの人はどうしてこんなことを言うのか、さらにそれはなぜか、など、芋づる式に関係性や相互の影響について考えるくせをつけていると、さらに広い視野で俯瞰的に見られるようになります。
7. 当事者との協働
デザイン思考では、共感の部分からテストに至るまで、当事者と一緒に進めることで、ユーザー不在に陥ることを防ぎます。ここで注意が必要なのは、協働を行う当事者の選び方。視野が狭まることを防ぎ、自分たちの論理に陥らないことが目的になるので、平均的な当事者では不十分です。その人の視点やニーズから外挿して真の目的やニーズに気づくことが目的ですので、あえて極端なユーザーに加わっていただいた方が気付きも多く、実効が高くなります。
また、加わっていただいたユーザーのためのものを作る、と勘違いされやすいのですが、数人のユーザーの意見に合わせることはあまり意味がありません。できるだけ”普通でない”極端なユーザーに加わっていただくことで、”そういう視点が必要だったのか””ほんとうの目的はこっちだった”といった多くの気付きを得ること、視野を広げ、真の課題解決へと繋げることが大切です。
また、当事者の視点や価値に気づくためにはインタビューや対話を行うことが大切です。
例えば、新しい車を開発して新規ユーザーを獲得したい、という目的の時に、そもそも車の必要性はあまり感じていない方の場合。普段移動はどうしてますか?とか、休日はどのように過ごすことは多いですか?などといったことから伺っていきます。その方がどんなことに価値を感じてどのようなライフスタイルでいるかから伺った方が、遠回りのようで、真のニーズを外さずにすみます。車の必要性は感じていないが、エコな生活をしたい、自然に囲まれた暮らしがしたい、といった価値観が聞き出せれば、例えば太陽光発電で充電して、アウトドアでの電源にもなる自然と調和するデザインの電気自動車、などのアイディアが出てくると思います。必要と感じていなかった方でも、自分の価値観に合う提案には興味を示しますね。
デザイン思考のプロセスは対話のプロセスでもあります。当事者やメンバーとの対話を通して、相手の価値観や視点を受け入れながら、相乗効果で創造性を高めていきます。一旦自分の価値観・視点へのこだわりを捨て、違う価値観や視点を受け入れる、そういう考え方もあるんだ、と楽しむ姿勢が、新たな気づきを生みます。
これも普段から心がけることでレベルを上げることができます。改まってでなくて良いので、何気なく親や家族、友達などで対話やインタビューの練習をしてみると良いと思います。思いがけない一面や、価値観や視点を発見できるかもしれません。