消費者・顧客の立場にたって、心をこめた“よきモノづくり”を行ない、世界の人々の喜びと満足のある豊かな生活文化を実現するとともに、社会のサステナビリティ(持続可能性)に貢献している花王様。商品研究や開発のメンバーを中心にユーザのありのままの知っていただくためにインクルーシブデザインのワークショップを体験して頂きました。
参加者を代表して、担当の横須賀様・佐野様にお話を伺いました。
– インクルーシブデザインワークショップを行ったきっかけを教えてください。
横須賀様:日本も含め、世界的にも高齢化社会を迎える国が増えてきます。高齢者の増加と、各ジェネレーションでマジョリティの消失が課題となります。高齢化は、例えば足が悪くなったり、耳が遠くなったりとさまざまな障がいを抱えた人の増加を意味します。また、経験値の高い方が増え、価値観の多様性も増す、など、社会の多様化ということにもつながると思います。そのような状況を迎え、我々はどうやって対応していけばいいのかということを考えるヒントがあるのではないかと思いインクルーシブデザインワークショプを実施しました。
佐野様:今まで自分たちは年齢や家族構成のマジョリティを中心に研究しながら次の商品を考えるということをやってきました。生活スタイルの多様化が増してきたことで、マジョリティが消失し、他の人たちはどんなことを考えているのかということが、個人の想像だけでは捉えることが難しくなってきています。現在、社内でユニバーサルデザインの推進を行っており、お客様の多様性に対しどのように使える商品の幅を広げていくかということを考えています。自分たちの感覚にない人々の意見も取り入れていかなければいけない。そんな中、リードユーザは高齢者に近い感覚を持っていて、言葉にする能力も高い。彼らの意見を取り入れ、自分たちの発想を広げて行くためにインクルーシブデザインワークショップが活用できないかと思いました。
– 今回、ワークショップ実施の狙いはなんですか?
横須賀様:センシビティをあげて欲しかった。こういうやり方もある、こういう人もいるなど、普段我々が感じている常識とは違うところにあるものをみることにより、もっと視野を広げて感じないといけないんだということを気づいて欲しいと思っています。もう1つは気持ちの部分。実際の行動もそのものも大切ですが、ついつい我々がやりがちなことは、使いにくいものを使いやすくしてあげましょうとすぐ考えてしまうこと。やってあげること、簡単にすることが良いことではなく、その人たちがしたいことをどうやってかなえてあがられるかということが大切で、そこに気づいてもらうということが一番大きかったです。きっと日常生活をしていても見える景色が変わってくると思います。たぶん今まで普通に街をあるいていたら気づかなかったお子さん連れのお母さんや杖をついている高齢の方への見方が変わってくるはずです。そうなってくれば自然に気づくものが増えてくると思います。
佐野様:ワークショップ形式で議論すると、どんどん自分たちの発想を広げていくことができます。テーマを持って集まるだけではなく、自分の頭の中に新しい情報を何かインプットした上で、その上でそれをどう感じたかをみんなで出し合う。自分とは違う意見が普段同じ会社の中にいてもやっぱり出てくる。そんなお互いのズレを知り、議論を重ねていくことが広い知見となっていく。その中で、自分が思いもしなかったことから何か発想していくという体験がインクルーシブデザインワークショップの中にはあると思います。もっとみんながあのような経験をして、社内の議論の場で応用していけたらいいと思いました。
– インクルーシブデザインワークショップを体験して感じたことは?
横須賀様:個々の気づきも大切ですが、気持ちをフラットにする、頭の中をフラットにする感覚がちょっとずつつかめてきた気がします。普段は視点が一点に集中しやすいところがあるので、集中もしつつ少し引いた目で見て行く。そうすると個々のディテールじゃなくて、その人を含めたバリエーションのイメージが自然にできるようになってきました。ありのままをみることにより、思考の範囲が広がっている感じがします。
佐野様:さまざまな人と議論をしていても、ポンポンと発想できるまでにはまだまだ訓練が必要だと感じました。自分の中でデータをみながら解釈する事はやっていたけれども、さまざまな人の意見を聞き、そこから瞬時に自分の発想を出すことを過去に経験していなかった。思ったアイディアを出していくということが非常に重要だと思う。その中で、自分の中の蓄積しているものと、外からはいってきたもののマッチングができたときに何か新しいアイディアがひらめくと感じました。そのため多くの議論の場を経験し、自分の中の思考の引き出しの数や開け閉めの速さを獲得することが必要だと思いました。
– 今後の事業にインクルーシブデザインがプラスになる、と感じたことは?
横須賀様:気づきそのものもあるが、視野、感じる気持ちが確実にあがっている気がします。そして、今までと違う世界を知ったわくわく感があり、ワークショップの帰りはみんなが笑顔でした。体験して良かった、おもしろかったという声が飛び交い、次はもっと違うことをでやりたいという意思が強くなっているように感じました。得られた成果で一番大きかったのはそれではないのでしょうか。それをもっと色々な形で、次に繋げられるようレベルアップしていきたいです。
佐野様:もっとリードユーザとの対話の場を増やしたり、もう少しテーマを絞ったワークショップの実施など今後やっていけるのではないかと思います。そういったところから実際にモノやサービスのアイディアに結び付けて行けるのではないでしょうか。
– これからのIDSに期待することは?
横須賀様: 一番思うのはもっともっと大きくなって欲しいです。お互いにwin-winになれればと思っています。日本は多様性を受け入れると言う面ではまだまだ遅れているし、弊社も制度面では整ってきていますが、実際はまだまだやらなければならないことがたくさんあります。これを少しずつ変えて行かなければより良い物も作れなくなっていく。インクルーシブデザインワークショプなどをきっかけにし、もっと深く個人のレベルをあげていきたいと思います。
佐野様:きっと将来的にはリードユーザの幅が広がりもっといろんな人たちが活躍すると思います。私たちもリードユーザといろんな対話をしながら商品のことをどのように改良していくのかということを考えていきたいです。今後も、そういった私たちのリクエストに応えていただける形でご協力いただけたらと思います。